東京SP研究会トップページ > コラム:日下隼人 > No.56
No.56
患者と医師との間の境界線
医師は世界中で得られた医学知識に包まれています(そこは横文字の横行する世界であり、自然科学の論理の世界です)。その知を、医学など知る必要もなく生きてきた=普通に暮らしている患者さんにうまく(わかりやすく)伝えるのが医師に求められるコミュニケーションだと、医療コミュニケーションでは考えられがちです。そのとき、医学の世界に生きる医師と、普通の世界に生きる患者の間に境界線が引かれています。つまり、医師と患者は別々の文化に生きており、医療コミュニケーションは異文化コミュニケーションです。でも、ここに境界線がある限り、コミュニケーションを通してもそれぞれの想いは「伝わらない」という気がします。
病気の人と「想い」を通わせるためには、この境界線を医師と患者の間から、医師のからだの中にずらすことが必要なのだと思います。医師の心の真ん中に境界線を通し、医師の心の中で医学の世界の感覚と普通の世界の感覚とをせめぎ合わせ、そのせめぎ合いの中で普通の世界の感覚に軸足を置いて、患者さんと言語的・非言語的にかかわることが医療コミュニケーションのはじまりだと思います。普通の生活の感覚を保つということは、医療の学校に入る前の自分の感覚を忘れないということです。かつての自分なのですから、外国の人との異文化コミュニケーションよりはまだできそうなのですが・・・・・。