東京SP研究会
コラム:日下隼人

日下隼人プロフィール

No.67

身をもって教える 

日下隼人    ある医療系サイトで、アメリカの「性器の診察方法を身をもって教えてくれる人」Genital Teaching Associatesのことを報告している人がいました。筆者は、「わくわくしながら(実習の)当日をむかえ」、この経験を「ありがたいことである」と結んでいます。でも、そのassociateが、お金に困っている役者のアルバイトだと恥ずかしそうに告白したと最後に書かれていました。
   この話を読んで、私はまず、自分の身体に自信がない人はこのようなことはしないだろうし、とすると、いくらこのような人の診察を経験しても「自信がある人」の診察はできても「自信がない人」の気持ちへの配慮までは身につかないのではないだろうか、と思ってしまいました。根が下品なのでしょうね。それはともかく、この話を読んで、またまた「進んでいる欧米、遅れている日本」という思考パターンにとらわれる人がいるのではないかと気になりました。Associateに感謝しているからと言って、この筆者は、自分もしてみようと思うでしょうか。身内がすると言えば、薦めるでしょうか。その人のことを心から尊敬しているでしょうか。「恥ずかしそうに告白している」という言葉には、逆の思いが読み取れます。
   内田樹さんは、少女売春について「性の商品化には職業訓練が必要とされない(むしろ訓練化されていないことが市場価値を形成する)。性の商品化は、顧客のレスペクトを得るためのものではない。良い仕事というのは高いレスペクトを受ける仕事のことである」と言います(「おじさん的思考」・この文章は、「模擬患者と身体診察B」でも引用しました)。協力者に「恥ずかしい思い」をさせてしまう教育はやはりおかしいのではないでしょうか、とりわけ医療という心の傷ついた人と接するところで働く人間の教育の場では。
   「身をもって教える」という言葉はもっと大切な言葉です。医療の道を先に歩いている者として、私たち自身がロールモデルになり、自分の想いを伝えるという意味で。

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