東京SP研究会
コラム:日下隼人

日下隼人プロフィール

No.72

患者さんとともに 

日下隼人    医療の場のコミュニケーションは、「患者さんの話を聞きだし、患者さんに説明する」「理解を深めてもらう」「行動を促す」ことだと考えられがちです。でも、このとき医療者は不動の場所にいます。片方が不動の場所にとどまり続けるコミュニケーションはあるのでしょうか。
   コミュニケーションとは、「患者さんに」ではなく「患者さんと」話すことではないでしょうか。患者さんに話すのはto the patientであり、患者さんと話すのはwith the patientです。toは上から、withは横に並んでのコミュニケーションです。Withを支えるのは患者さんと一緒に歩む気持ちであり、「患者さんとともに(with)」は医療の基礎です。
   患者さんに向かって話すのはdisease(疾患)であり、患者さんと話すのはillness(病い)です。患者さんとその人の「病い」について話し合いながら、患者さんと私とのそれぞれの人生の物語を新しく紡いでいく(紡ぎ直していく)のがnarrative(病いの語り)であり、その紡いだ物語によってケア・医療を根底から問い直し軌道修正していくのがreflection(省察)であると思います。医療の枠組み・医療の現状と対峙することを辞さないスタンス、さらには、ケアとは一人の患者さんの「生」に沿うように常に医療の枠組みをずらし作り変えていくことだというスタンスをまずしっかり持っていないと、narrativeもreflectionもうまくいかないのではないかと思っています。



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