東京SP研究会
コラム:日下隼人

日下隼人プロフィール

No.88

患者さんの笑顔に結ぶ医学教育

日下隼人     Outcome based Educationという言葉が流行りだしたことはNo80で書きましたが、次々回の医学教育学会のテーマとなるようです。「でも、そんな簡単に教育のoutcomeなんて出ないでしょう」と担当の先生に尋ねてみましたら、長い経過で見るのだという返事をもらいました。20年後をめどにして考えるという発表もありました。
   1999年に武蔵野赤十字病院で医学教育学会を主催したときのメインテーマの選定の際、「医学教育の目的は、患者さんが笑顔で帰れるような適切な医療を行える医師の養成、つまり医学教育の最終目的は患者さんの笑顔ですね」と私が言い、「患者さんの笑顔に結ぶ医学教育」になりかけたということは、No27で書きました。いろいろあってこのテーマがボツになり、「暖かい心で満たす医学教育」に落ち着いてしまったこと、そのテーマを「ずいぶん時代が戻った感じのテーマだ」と評した人がいたことも書きました。けれども「時代が戻った」のではなく、いつの時代も変わらないテーマこそが大切であり、それこそが求められるoutcomeなのだと思います。(こうしてみると、「重要なことを繰り返し言うことが大切なんだ」という鶴見俊輔はやっぱり偉いと思ってしまいました。)
   どうすれば患者さんが笑顔になることができるか。そのためには、医療者のコンピテンシー(職務の内容や仕事の役割に対して期待される成果を導く上での行動特性)を育てるしかありませんから、学会でもコンピテンシーという言葉がなんどか語られていました。20年後と言うと、医療ばかりかこの国もどうなっているかわかりません。そうすると、20年後の目標に立てられることは、100年や200年では変わらない本質的なことに限られざるをえません。職業人として、人、それも病む人と関わる人間として求められる姿勢・態度、力を、目標とすることになるでしょう。ただ、このコンピテンシーは、大学教育だけで行えるものではありません。研修医教育、そして職員教育の中で、絶えず目標として研修が行われなければなりません。
   10年前、私のいる病院で人事考課を考えたときに、成果主義を取り入れることには抵抗があり、私はコンピテンシー評価表を作成しました。「愛の病院」を理念とする当院で働く人は、どのような医療者であってほしいか。とはいえ、医師や看護師は特定の病院への帰属意識が低いのですから、「武蔵野赤十字病院が求める医療者像」では説得力に欠けると思い、この先医療者して生きていく限り、受益者からはこのようなコンピテンシーが求められるはずだ、このようなことができなければ良い医療は行えないはずだという視点で、評価表をまとめました。その一部は、「新医師臨床研修制度における指導ガイドライン」に掲載されていますので、今でもたまに資料がほしいというお電話をいただくことがあります。
   15年近くの時を経て、あのときの思いが実ったという気もしていますし、けっこう「良いことを言っていたんじゃない」とも思っているのですが、やっぱりOutcome based Educationという言葉よりも「患者さんの笑顔に結ぶ医学教育」のほうが、人間の身の丈に合っているような気がするのは自画自賛でしょうか。(2011.8)



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