東京SP研究会
コラム:日下隼人

日下隼人プロフィール

No.10

患者に「させないで」

日下隼人 医療面接演習終了後のフィードバックの際に、学生に「もっと患者さんに話させなくてはいけないよ」と言う医師がいます。インフォームド・チョイスを語る際に、「患者に選ばせる」という人がいます。医療コミュニケーションを語るのに、「患者の質問の時間を与える」という人がいます。ああ、「お医者さま」って偉いんだなとあらためて思い、こんな言葉で医療が語られる日がこなくなるように模擬患者の活動のお手伝いをしてきたのにと、ため息が出てしまいます。
 病院では、「入院させる」「退院させる」「待たせる」「受診させる」「歩かせる」「守らせる」・・・「させる」の氾濫です。「与える」「してあげる」も同じです。私は、これまで2度「これをやるよ」という言葉とともに本をもらったことがあります。
医師であることが、目を高くしてしまうのでしょうか。そして、このような高い位置からの医師の目こそが、医療をだめにしているのではないでしょうか。「させる」という使役動詞を使う人が、ほんとうに患者中心の医療を考えているとは、どうしても思えません。
Understandという言葉は、相手の下に立たないと相手のことは理解できないという意味なのだそうです。そうだとすると、「させる」という言葉は患者とのコミュニケーションを拒む心から生まれているのでしょうね。
患者が中心にいるのならば、いつも「患者が・・・」と、患者さんを主語にして語られなくてはならないはずです。患者中心という言葉を医療者が勝手に占有することで自分を免罪してしまい、医療者の足元を問わずに済ませてしまうという構図がここにはあります。
こうした言葉に取り囲まれ、こうした言葉に慣れていくことで、若い医師がだめになっていきます。言葉狩りのようですが、「・・・させる」という言葉が医療の世界から消える日を目指して、もう少し頑張ろうかと思っています。

▲コミュニケーションのススメ目次へ戻る        ▲このページのトップへ戻る

 

プライバシーポリシー | サイトマップ | お問い合わせ |  Copyright©2007 東京SP研究会 All rights reserved.