東京SP研究会
コラム:日下隼人

日下隼人プロフィール

No.102

「何様」の言葉

日下隼人    「医者って何様のつもり」ということを、私は医師の日常的な会話の端々に、立ち居振る舞いに感じます。「うん、うん」「あー、あー」という返事、「そうなんだ」「そうだね」という相槌、敬語抜きの会話。おかしな笑い方をする人も少なくありません。こうした医療者の患者に対する言葉遣いは、学生どうしの会話、お友だちどうし会話、部活の会話が続いていると考えると納得できます。私たちは、オトナになる機会を逸してしまっているようなのです。就職試験を受け会社に入るというありがちなコースを歩む場合、新人教育や現場で「言葉づかい」「態度や姿勢」「声や笑い」「身なり」といったことを相当厳しく教育されるはずです。「学生気分」は一掃され、社会人として必要なマナー、顧客に接するときの態度を学ばされます。
   けれども、医療の学校では、このようなことが医療者にとって必須のことは教えられてはいないようですし、現場ではもっと教えられていません(真逆のことが日々行われていることを目の当たりにし、そこから学んでしまいます)。社会人としての関門がないまま、医療者は「社会」に入ってしまいます。20代前半の人が、勤めだしたとたん、自分に頭を下げる人と日々接し、その人に教示し、指示し、時に叱責するのですから、社会人としての成長は望むべくもありません。学生や部活でなら許される会話でも、社会では好ましくないということを、弱い立場の患者さんは指摘してくれませんから、気づくこともありません。指摘する人がいれば、クレーマーとしか感じません。
   若いころ、私は会社に忠誠をつくす会社人間は嫌だと思いました(今もそう思っています)が、社会人になるためには一度は会社人間になるという経験が必要なのでしょうか。もっとも、患者には「何様?」という言葉遣いをしているのに、医局内の上下関係の中ではそれなりの社会人としてのマナーを守れている場合も少なくありません。やればできることを患者にしていないのだとしたら、患者を尊重することを学んでいないということに尽きるのかもしれません。人に「奉仕する楽しさ」を享受するよりも、人を「支配的に見下ろす」快感に足を掬われてしまいがちな場所に私たちは生きています。 (2012.3)

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