東京SP研究会
コラム:日下隼人

日下隼人プロフィール

No.115

会話を楽しむ

日下隼人    私の外来を見学した学生から、私の話し方に驚かれることがあります。
   私は、言葉遣いはNHKのアナウンサーを、「間」は落語を、接し方はホテルマンを先生として、学んできました。いつも敬語を使うように心がけていますが、こちらのほうはどこで覚えたのか記憶がありません。でも、きれいな敬語を使うことがとても好きです。少しギャグを入れたりするのは、関西の人間だからかもしれません(ギャグを入れる時は、いつも「すべった」時に継ぐ言葉を用意しています)。わざと口ごもったり、わざと「ため口」を使うこともあります。説明にはいろいろなサイトからの印刷物を利用しながらたとえ話を多用しています。それらが合わさって、「ことばの肌理」(鷲田清一)、「言葉の表情」が生まれているのでしょうが、驚いていただくほどものでもないとは思います。でも、「言葉の表情」を気にし出すと、話すことが楽しくなります。
   私が立てている原則は二つしかありません。一つは、どんな時も最大限の敬意を持ち続けること。もう一つは、相手の立場に身を置いて、(心の中で)患者さんと並んで座って私たちの世界を見直すこと(Joint attention・・・心理学で言われているものとはすこし違うかもしれませんが)。「医者は簡単に2,3日とお話するのですが、お母さんにとっては長い時間ですよね」とか「医者はずるいので100%とは言わないのですが、99%以上に大丈夫だと思います」などと私が言うのもその思いを込めているのですが、通じているでしょうか。
   自分の「言葉の表情」は原則の表れです。芸事で「型を学ぶ」というのも、型を真似ることを通して基本的な姿勢を学ぶということだったのではないでしょうか。原則を踏まえているからこそ、会話が楽しくなりますし(楽しむのは「相手の人も私も」ですし、必ず相手の人が先です)、楽しくない会話からは良いコミュニケーションは生まれません。二つの原則は、相手の人の心が晴れる会話を心がけるということでもあります。(2012.10)

参考までに
            生田久美子「『わざ』から知る」東京大学出版会1987
            前田重治「『芸』に学ぶ心理面接法」誠信書房1999

▲コミュニケーションのススメ目次へ戻る        ▲このページのトップへ戻る

 

プライバシーポリシー | サイトマップ | お問い合わせ |  Copyright©2007 東京SP研究会 All rights reserved.