東京SP研究会
コラム:日下隼人

日下隼人プロフィール

No.122

苦手な患者ほど丁寧に

日下隼人    誰にでも「苦手」な患者さんはいます。「いやだな」と思う患者さんもいます。「社会的に問題がある」と感じてしまう患者さんもいます。人間ですから、好みがあることは仕方ありません。患者さんの側にそれなりの問題があることも少なくありません。
   そんなとき、苦手意識をなくそうと無理をしすぎると、自分が見えなくなりそうです。むしろ、好みをなくしてしまえないことを認めて、自分の好みの傾向をわきまえ、患者さんを印象で見ている部分のあることを自覚しておくことのほうが大切だと思います。
   そのように感じた患者さんには、私は普通の場合の「倍くらい」丁寧につきあうようにしています。好き嫌いの感情は必ず態度や雰囲気にあらわれてしまいます。誰とでも同じように付き合っているつもりでいても、「苦手な」患者さんはこちらの気持ちを感じ取り、そこから不信感が生まれます。患者さんが不信感を抱いているらしいことを感じれば、医療者のほうにも不信感がうまれ、悪循環が始まります。こうして、関係が悪化した末の「クレーム」は珍しいことではありません。
   こちらが、普通の場合の「倍くらい」丁寧につきあっていると思っているときに、やっと当の患者さんからは「だれにでも同じように接する人だ」と認定してもらえるのです。このことは、学生1)や研修医の指導の場合でも同じでだと思います。

   患者さんからの要望はすべて「クレーム」と受け取る医師がいます。そのような人はたいてい、「文句を言う患者とは信頼関係がつくれないから、もう来なくて良い」「受診しても、自分は診ない」などと言います。自分は正しいことを遺漏なく行っていると考えている限り、自分が信頼関係を作れなかった原因かもしれないとは考えにくいものです。「クレーム」を刈り取れば、あとは平和だと思ってしまいがちです。でも、黙っている人、感謝の言葉を発している人には不満や葛藤がないはずがありません。
   その不満や葛藤を掘り起こさなくても良いのです。「きっといろいろな想いを抱いておられるのでしょうね」と思い続けていることは、患者さんに伝わります。「クレーム」と聞こえがちな情報こそが、その思いを保ち続けることを可能にしてくれます。(2013.1)

1)日下隼人「看護学生を迎える病棟の若い友人へ」看護学雑誌1995年1月号

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