東京SP研究会トップページ > コラム:日下隼人 > No.124
「緊急性はありません」という研修医の言葉に、救急外来にその子どもをつれてきた母親は怒ってしまいました。「子どもが吐いて苦しがっているのに、緊急じゃないんですか」と。
緊急手術を要する疾患の可能性がなく、中枢神経系の疾患の可能性がなく、あといくつかの代表的な疾患が否定的であれば、医師は「緊急性がない」とホッとしますし、そう患者さんに言うことはgood newsのつもりです。でも、青い顔をして何度も吐いている子どもの状態は、母親にとっては緊急事態以外のなにものでもありません。医師の「緊急性」と患者さんの「緊急性」とは異次元の言葉なのです。安心してもらおうと思って医師が言ったとしても、救急外来に駈け込んで来た母親にとっては「緊急性がない」という言葉はその判断や行動自体を全否定された気がします。
この母親が小児科の外来で言って下さったお蔭で、私は事態を知ることが出来ました。医療の場のコミュニケーションは、異文化コミュニケーションであると同時に異次元コミュニケーションです。この事態の解決はそんなに難しいことではないはずです。「医学的には・・・・といった緊急の治療を必要とする重大な病気ではないと思いますので、ひとまずご安心ください。でも、辛そうですからなんとか症状を軽くするようお薬を使ってみましょう」と、丁寧に二つの次元を行き来するだけで、母親が怒るような事態にはならないと思うのですが。