東京SP研究会
コラム:日下隼人

日下隼人プロフィール

No.127

ケア、いつもあなたのことを

日下隼人    「ケア、いつもあなたのことを」という生命保険会社のコピーについてはNo38でも触れましたが、人が人にできるケアは「承認」しかないのではないでしょうか。他者からの承認なしには人は生きていけません。人に認められることがなければ、誰も人とつきあおうとは思わないでしょう。承認は、人が人にできる最高の、かつ唯一のプレゼントです。ケアに関わるということは、どんな時も相手を承認する覚悟を決めることです。この「承認」は上から認めてやると言うことではなく、相手を肯定して下から支えるということです。
   私は、この1年ずっと、「どうしているかな」と試練の中にいる一人の若い友人のことを気にかけ続けていました(相手から友人と認知されているかは不明ですが)。実際には気にかけていただけで、具体的にお手伝いできたことはほとんどありませんでしたが、逆に、気にかけ続けていたお蔭で私は定年を控えた不安定な時期を乗り越えられた気がします。人のことを気にかけ続けるということは、実は自分がその人に支えられるということです。医療の現場は、そのような出会いの場であり、私たちこそが患者さんから支えられているところです。そして、そのことに気付かない医療者が少なくありません。
   承認は挨拶から始まります。挨拶をきちんとしない人というのは、相手を認めていないのだと思います。相手を認めなければ、相手からも承認してもらえません。だから、挨拶をきちんとしない人は、人生を甘く見ているのです。若い医師が、いつの間にかそんなふうになってしまうのが医療の現場の怖さです。
   患者さんは、研修医の成長のために身体と心を提供してくれる先生であり、私たちを支えてくれる=ケアしてくれるパートナーです。その先生=国民から患者にベストを尽くす医師であることを負託されている証が医師免許証です。先生なのだからきちんと接しようと考えれば、態度はおのずと定まります。
   新しい研修医が働き出す季節がやってきました。きっと誰もが、はじめは患者さんのことを先生だと感じます。あっという間にその思いをすり減らしてしまうのか、その思いを抱き続けていくのか、それは先輩の医師たちが自らの初心とどう向き合っているかにかかっていると思います。(2013.4)

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