東京SP研究会
コラム:日下隼人

日下隼人プロフィール

No.128

「隗より始めよ」

日下隼人    ある学会の開催日に台風が近づいてきたとき、その学会のメーリングリストに「台風が中国に逸れればよいのに」と書いた人がいて、私は抗議してしまいました。この学会にも中国の人が参加しているはずですし、その人が見たらどんな気がするでしょう。台風が中国に行ったほうが、もしかしたら被害は大きくなるかもしれません。その被害者のことが見えていたでしょうか。国際化とかグローバリゼーションという言葉が氾濫していますが、普通に暮らす人間どうしとしての共感に支えられない国際化は、英会話が上手だというだけのことにしかならないのかもしれません。
   臨床倫理を研究する会に出席してきたのですが、相変わらず「生死を巡る問題」のオンパレードです。ふだんの、ありふれた診療場面に求められる倫理を問い続けてこその臨床倫理だと思うのですが、残念でした。
   そのプログラムには製薬会社の広告がいっぱい載っていました。企業後援のランチョンセミナーも開かれていました。医療の世界に居ない人なら、倫理を語ることと企業との結びつきとの間に「何かある」と思うかもしれません。このようなことに敏感でない人に、自分の生死を巡ることを議論されたくないと思う人がいても不思議ではありません。
   臨床倫理を語るということは、最低限の「倫理的姿勢」を貫いて生きていなければ空虚です。医療の世界に居る人には見なれた光景ですが、現場の倫理を考えるということは、こうした「当たり前」の光景を問い直す姿勢を議論することからはじめることが求められていると思います。自らのありようを問わずに、人の生死に関わることを議論するということは、人に対して失礼なことだという気がします。「隗より始めよ」です。(2013.4)

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