東京SP研究会
コラム:日下隼人

日下隼人プロフィール

No.136

一緒に歩いてくれる人

日下隼人    20年以上前に、小児がんで私が担当した女性に、病院で講演してもらいました。病院で治療したのは、2歳から5歳のころでした。随所で耳が痛い話だったのですが・・・。

   「病院生活と言っても、本人が感じる病院生活と、他の人が感じる入院生活と言うのはぜんぜん違うのです。よく他人から『病気をしたのは、大変だったでしょう、つらかったでしょう、苦しかったでしょう』とすごくネガティブな言葉を浴びせられるのです。でも私にとっては、何を『苦しかった、つらかった』と言うのだろうと不思議で、そうした言葉にすごく反発しました。私にとって入院生活は充実していたし、楽しかったのです。病院の中で、先生はもう一人のお父さんになり、看護師さんはもう一人のお母さん・親戚のおばさんになり、年齢の巾の広い友達がたくさんできて、調子の良い日にはトランプやUNOと言ったゲームやオセロをしたり、ファミコンをしたりして遊んで、普通に自分は過ごしていたのです。」
   「小児病棟の子どもって、すごく鋭く人の気持ちを察しているのです。それに、分からないなりに病気のことをもっと説明してほしかったと思います。いつも美味しくないどろどろの薬を出されていたのですが、私はほとんど飲んでいませんでした。この美味しくないものを我慢してまで飲む理由がわからない。2,3歳でも、『これを呑まないと大変なことになっちゃうよ』と説明してくれたら呑んでいたと思います。説明もなくただ出されていたので呑まなかったのですが、何とか大丈夫でした。お医者さんに親と子どもそれぞれに分かりやすい言葉で説明してほしかったなと思います。『あなたは癌という病気で、とても悪いものだからこうしようね』と言われたら、そうなんだと思って心構えができたと思いました。心構えができないでいろいろな治療を受けることはすごいストレスだったので、説明がほしいと思いました。」
   「時々研修生の人も来るのですが、私はそういう人たちにはすごく冷たく、嫌な子どもだったと思います。すごく警戒しましたし、『よりちゃ〜ん』と猫なで声で話かけてくるような人は大嫌いでした。癌のときって、座って息をしているだけでしんどいのです。そんなときに、余計なことをしてほしくないというのがあります。調子が良いときなら良いけれど、そうでないときに来られるとぐったり。そういう距離感を感じながら接してくれると、心をもっと開けたと思います。」
   「先生の影響力はすごくあるし、看護師さんはほんとーうにお母さんになってしまいますから、看護師さんにはお母さんの役割としてすごく愛情を注いでほしいと思いますね。お医者さんには、自分が命を預けている、全てを預けていると言う感覚がどこかにあるので、いつもいつも正直に向き合ってほしいというのがすごくあります。そのときの気持ちを常に言ってほしいし、状態を言ってほしい。分からないなりにも聞いておきたい、理解できなくとも状況を感じることはできる、ということをすごく感じました。」
   「病気というのはほんとうに自分ひとりでは乗り越えられない大変なものなんですね。そのときに、パートナーだったり、仲間だったり、友達、もちろん先生もそうですが、とにかく一緒に歩いてくれる人が必要です。」

   現在、彼女はシンガーソングライターとして活躍し、小児がん患者支援のボランティアもしています。より子 http://blog.oricon.co.jp/yoricoblog
   (2013年1月24日の記事に、当日のことを書いてくれています。) (2013.7)

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