東京SP研究会
コラム:日下隼人

日下隼人プロフィール

No.139

二つの姿勢

日下隼人    2009年の医学界新聞に、医学生に向けて私は次のように書きました。

   「医師の一生は最初の2年間にかかっていると思います。この2年間に、その人なりの医師としての形ができてしまうからです。初期臨床研修は医師としての基本的姿勢を身につける時だと私は思っています。言い方を変えれば、この時期は医師としての基礎工事の時期です。基礎工事は外から見て華やかさはありません。ついつい早くきれいな建物が建たないかと思ってしまいますが、ここで鉄筋を少なくしたり水分の多いコンクリートを使うような手抜きをしてしまうと、建物は地震のときに倒れてしまうかもしれません。
   身につけるべき姿勢は二つあります。一つは、患者さんの味方として、その心・人生を支える職業人としての確固とした姿勢であり、もう一つは疾患を科学的に多面的に徹底して分析する姿勢です。どちらにも共通するのは、人と病気への謙虚さです。この姿勢を、統合的な姿勢と分析的な姿勢とも、人文科学的な姿勢と自然科学的な姿勢とも、母性的な姿勢と父性的な姿勢だということもできます。どれだけたくさんの技術や知識を身につけられるかを気にする人がいますが、技術も知識もこのような姿勢を通じて身についていくものです。知識や技術の有効期限は長くありませんが、姿勢=態度は一生ものです。一般的に、医師は、知識や技術は自分より優れた人に学び、態度は自分より劣る人を真似がちです。だからこそ、まず自分の足場をしっかりしたものにしていただきたいと思っています。キャリア形成は、その先で考えるべきものです。
   このような姿勢を身につけることは、2年間の課題をしっかり見据えていれば、どこの病院でも可能です。どの病院にも、よき先達と反面教師がいます。与えられることを待つのではなく、よき先達のもとで自分からどんどん学ぶ人であれば、病院による差はわずかです。ただ、一人ひとりの性格は違います。たくさんのcommon diseaseの患者さんを診療することでこうした姿勢を身につけられる人もいるでしょうが、大学のようなところで患者数がそう多くなく珍しい病気の患者さんを丁寧に診療するほうが身につきやすい人もいるでしょう。自分の性格を知り、研修したい病院がどのような機能の病院か、どのような指導をしている病院かなどをよく知った上で、研修病院を選ぶことが大切だと思います。」

   先日、ある研修会で、講師の若い医師が研修医たちにこの内容を話してくれたことが、素直に嬉しかった。今年の研修医の一人が、大切にしている言葉は「CompassionとScience」だと採用面接の時言いました。若い人は、私よりずっとうまくまとめるものだと感心。(2013.8)

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