東京SP研究会
コラム:日下隼人

日下隼人プロフィール

No.19

モンスターペイシェント 2

日下隼人 モンスターペィシェントという言葉は、医療者にはとても心地よいらしいのです。医療を問う(責める)患者への鬱屈した思いを和らげてくれているようです。ここ10年あまり、心ならずも(いやいやながら)「患者が中心」と言わざるを得なかった「恨み」が晴れるのかもしれません。
そして、医療者を攻撃することが「病」の症状である人たち(数としては多くないのですが)の大きな声のために、「私たちの鈍感さが普通の人をモンスターにしていることが少なくない」という事実から私たちの目を逸らさせてしまっています。「とんでもない患者」が全患者の中に占める比率と、「とんでもない医者」が全医者の中に占める比率との、どちらが大きいかという比較もされていませんね(この2つの「とんでもない」の意味あいは、ずいぶん違いますが)。
「モンスター」はマナーを守りません。マナーを守らない人とは、相手への配慮ができない人だとも言えますし、配慮ができない人だからモンスターになるとも言えるでしょう。とすれば、患者を「モンスター」というような言葉で表現して納得してしまう人もモンスターだということになるのに、そのことにはなかなか気づかない。
「風の谷のナウシカ」の住む小国は、地表の大部分を占め有毒の瘴気を発する巨大菌類の森=腐海から侵入してくる胞子を排除するために、全力を注ぎます。それでも忌まわしいことに、腐海は徐々に広がっていきます。ナウシカは、人が忌み恐れるこの植物をこっそり地下室で育ててみて、それが清浄な水と空気の下では瘴気を発しないことを発見します。瘴気を発するのは、この植物が繁殖する土そのものに問題があったからなのです。もし患者の起こすトラブルがまるで災厄のように感じられ、私たちが息苦しくなるとしたら、ナウシカのように“病院”という世界の空気と水、土に原因があるのではないかと考えてみることはできないでしょうか。「どうしようもない」と言わざるをえない人は確かにいます。でも、清浄な水を用意して、その結果を見てから断じても遅くはないのではないでしょうか。
ただ、現場では、患者さんから過酷な言葉を投げかけられ、それでも患者さんのケアをなんとか行いたいと悩み、心の傷を負ってしまった医療者が少なくないのも事実です。患者が悪いのか医療者が悪いのかという議論に陥るのではなく、どちらの人も支えられるような「ケアの体制」を病院として作ることが火急の用となっています。

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