東京SP研究会
コラム:日下隼人

日下隼人プロフィール

No.20

研修医の囲い込みはどんな医師を作るか

日下隼人 「医師が不足している」ということはあっという間に世間の「常識」になってしまいました(?)。たいていの場合、「あっという間」に出来たものは、吟味されないまま「あっという間」に消えてしまうことになりがちのですが、医師不足については「実害」が伴うので、しばらくは気にされ続けることになるでしょう。
医師不足ないし偏在の原因の一つに、臨床研修制度の必修化があげられることがあります。それが正しい理由かどうかは別としても、初期臨床研修を終えた医師の「囲い込み」運動が始まっています。特に法的に規定があるわけでもない「後期研修制度」の乱立です。
各大学はもちろん、国立病院は国立病院グループとして、赤十字は赤十字グループとして、都立病院も、徳洲会も、民医連も、有名私立病院の集まりであるVHJ(Voluntary Hospital Japan)も、グループの組める病院群はグループとしての後期研修システムを作り、他の病院も後期研修医師を募集しています。
これって、結局のところは、医師不足なので自分たちで若い医師を囲い込んで、自分の病院の戦力としたいというのが本音であるような気がします。「うちの病院なら、うちのグループなら良い研修ができますよ」と言うのですが、そのことが本当なのかをどうすれば確認できるのかがよくわかりません。私は、自分の病院だけで本当に良い医師が育てられるという自信がないので、研修医たちには「若いうちには大学を含むいろいろな病院で武者修行をするほうが良いよ」と言っています。
こんな雰囲気が続いていて大丈夫でしょうか。自分たちが売り手市場だと思えば、人間が傲慢になってくる危険があります。一度傲慢になれば、あとは傲慢さが持続してしまうことのほうがずっと多いのですから、早々に傲慢な医師ができあがることになりかねません。病院が、自分たちの戦力とするべく競って医師を集める姿に見えるのは、自分の病院さえよければという姿勢です。そのような姿勢を見せていることは、「自分さえよければ」という医師を育てていることにつながるかもしれません。「隠されたカリキュラム」です。
 コミュニケーションでも、「言葉よりも態度の方が多くの情報を伝える」とか「人は、話し手の態度で、その言葉を吟味する」と言われます。私は、講演のときに、どうしても早口で話してしまいますので、はじめに「『早口で話してはいけない』というお話しを早口でお話しします」とお断りしていますが、やっぱり変ですね。以前、コミュニケーションの講演をなさった先生が、質問者の言葉を遮り「こういうことを訊きたいのですね」と言ったところ、「違います」と言われた場に居合わせました。ハーバーマスのいう「行為的矛盾」とは、こういうことなのでしょうか。こういうとき、「コミュニケーションが重要である」といくら言っても、逆のメッセージが伝わってしまいます。

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