東京SP研究会
コラム:日下隼人

日下隼人プロフィール

No.228

医療者に見えないケアチーム

日下隼人     「先生や看護師さんは忙しそうで、自分のつらいことなどはとても話せなかった」という病院宛の投書がありました。医療者が忙しいのは事実です。だからと言って、「あんまり話さないで」という雰囲気を醸し出していたのだとしたら、プロとしては恥ずかしい。そんな時、患者さんは「こんなことを話してもいいのだろうか」と迷い、話の軽重の判断は患者さんが引き取ってしまっています。「話しても受け止めてもらえそうにない」と感じて、口をつぐんでしまっている可能性もあります。「どんなことでも話していいんだ」ということは、医療者が言葉で説明しなければ伝わりません。その言葉の真偽は、「ささいなことを」患者さんが話した時の医療者の態度で決まります。
    投書は「患者の話を聞いてくれるところを院内に設けてほしい」と続けていました。ガン患者さんのピア・カウンセリングのデスクはありますが、すべての病気に対応できませんし(それに、がんにもいろいろありますし、その人のstageや状態によって適切に対応しきれるとは限りません)、いざとなると「ガンのカウンセリング」という文字を見るだけで足が止まってしまうかもしれません。患者相談窓口はありますが、白衣の人には話しにくいこともあるでしょう。
    がんを経験した人が「医者にはなかなか話すことができないですよ。絶対に医療者でない相談相手=仲介者が必要だと思うんです。自分がもう少し若かったら、勉強してそんな仕事をするんだけど」と言っておられました。こうした思いの人が至るところにおられるのでしょう。そして、実際にいろいろな人がいろいろなところで(病棟ラウンジや外来待合室での雑談で、飲み屋で、メールで・・・・)患者さんの悩みを聞き、支えてくれているのでしょう。ケアチームが、医療者の視界を超えたところに広がっていることに、医療者は気づきにくいものです。「見えないけれどもあるんだよ」(金子みすず)、そして、そちらのほうがずっと大きな力になっているに違いないという視点は失わないようにしたい。
    「アドバンス・ケア・プラニングACP」という言葉が最近言われるようになり、その説明に「患者が、医師や家族などの最愛の人たちと相談し、将来的に判断能力を失う時の治療について、思慮深い方法で計画するプロセスのこと」と書かれていました。きっとそうなのだろうけれど、でも「医療者は医師だけなの?」「医師は、最愛の人ではないということね?」「思慮深いって?」「(きちんと)計画って?」と、いくつもの「?」が出てきてしまいました。(2016.01)

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