東京SP研究会
コラム:日下隼人

日下隼人プロフィール

No.3

「がん告知」の演習

日下隼人 こういう演習をしているという話をときどき耳にするのですが、私の経験から言うと、重い病名を伝えるということはこれまでの自分の臨床経験を背景に、その患者さんと出会ってからその時までの付き合い(たとえ数時間でも付き合いはすでに積み重ねられています)のプロセスを踏まえて、(相手に認められれば)自分がこの患者さんとこの先ずっとつきあっていくという決意のもとに、長い時間をかけて十分にお話ししていくことです(通常、私は1〜2時間をかけています)。 ですから、このような演習を学生などにしてもらうということは、私にはどうもしっくりきません。経験もなく、情報もなく、これから長い時間付き合おうという決意もないまま「患者さん」に10〜20分程度説明を試みても、病名を聴くことによる人の心の動揺を感じ取ることもできないし、患者−医師関係の重さを学ぶこともできません。竹刀の経験もない人に、いきなり真剣勝負をさせるようなものです。怖さは伝わらず、基本がいいかげんに身につく可能性があります。「がん告知」ってこの程度のものかと軽く受け止められてしまう危険性もありますし、逆にうまくいかないとトラウマになってしまう危険性もあります。 SPから考えても、このような場面でどのように心が動きどのような態度をとるかは、その人の生きてきた歴史・現に生きている状況に規定されますし、そのつどはじめてで最後のことなので、とても演技できることではありません。うそ臭い取り乱しや涙を見せることになってしまいます。これも、教育的には逆効果となりかねません。 模擬患者活動を、そして医療を、余り真剣に考えてもらえていないのかなと思ってしまいます。学生も、そのことに気付いているかもしれません。 そうそう、Bad News Tellingということも言われますが、本来、病気の軽重は患者さんにとっての意味であって、医療者が勝手に選別することではありません。医療者の考えるBadが患者にとってBadとは限りません。こういう言葉も医療者中心の考えから生まれています。

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