東京SP研究会
コラム:日下隼人

日下隼人プロフィール

No.31

コミュニケーション講義6

日下隼人    「A君の面接はプロのように上手で、患者さんの話をよく聞き出していた」「患者さんを安心させられる話し方だった」と、医療面接演習後に和気藹々と“ディスカッション”する5年生の学生たち。指導の医師たちも特にコメントをしてくれません。となると、「仕方がない、少し苦言を言っておこう」と私は意を決します。「確かに良い面接だったけれど、今君たちが言った『聞き出す』とか『安心させる』という言葉は、患者さんを見下ろす姿勢からのものだということに気付いて下さい。この『上から目線』が、患者さんと医者との間の信頼を最も阻むものなのだということを忘れないで」。医学部に入った瞬間から、学生たちは「上から目線」を身に付けていき、そして、患者さんからどんどん遠ざかっていきます。
   「君たちは敬語も望ましい態度も面接技法も、すでにちゃんと知っている。教授に会えば、ちゃんと挨拶するでしょう。身なりにも気をつけるでしょう。教授と話すときに敬語を使うでしょう。教授の話を、目を瞑ったまま聞いたり貧乏ゆすりをしながら聞くこともないでしょう。心からは尊敬していなくとも、そうしますね。親しい友人や恋人と話すときには、支持的・理解的な態度で相手の話を十分聴くでしょうし、自分の考えを分かってもらうために相手が納得できるように丁寧にわかりやすく何度でも説明するでしょう。だから、コミュニケーション能力は十分持っているのです。持っているベストの能力を患者さんにプレゼントして下さい」と学生たちに話します。
「安心させる」のような「(患者に)・・・させる」という言葉に包まれるうちに、若い医師たちは「上から目線」を身につけていきます。「させる」という使役動詞で語られる相手に、敬語も最高のコミュニケーションスキルも使わなくてよいと感じるようになるのはあたりまえです。
「『患者は最高の先生』なのですから、『最高の先生』にふさわしい態度で患者と接することがあたりまえ」ということだけでも6年間をかけて心に染み込ませてもらえれば、日本の医療も変わると思うのですが。


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