東京SP研究会
コラム:日下隼人

日下隼人プロフィール

No.32

コミュニケーション講義まとめ

日下隼人    「最近の患者は挨拶をしない」と嘆いている医師の文章を読みました。でも、そうでしょうか。私は、診察室の扉を開け、患者さんが入っていらっしゃるまで立ってお待ちして(実は、この間に患者さんの状態を診る、という診察もしています)、着座をお勧めしてから、自分も座ります。患者さんが部屋にお入りになるときに「おはようございます、お待たせしました」と先に言って、挨拶を返してもらわなかったことはありません。マイクで患者さんを呼んで、ノックに「はい」と答えて、座って患者さんが入ってくるのを待っていて、「あいさつは?」と待っていると、返ってこないことはあるかも知れないと思いました。自宅にお客様を迎えるときのあたりまえの接し方をしたいと思っているうちに、私の診察は今のような形になりました(私にもマイクで呼び入れていた時期がありました)。 医療におけるコミュニケーションが「特別なことだ」「難しい」と言うことは、私は好きではありません。親しい人とつきあうときには適切なコミュニケーション技法を使えているはずですし、院長や看護部長と会うときには敬語を用いることも礼儀作法も出来ています。こんな当たり前のことができなければ、社会でここまで生きてこれなかったはずです。目の前の患者さんに、すでに身に付けている知識と技術をプレゼントすればよいだけです。目の前の大切な人に自分のベストをプレゼントする、というのはあたりまえのことにすぎません。
   あえて言えば・・・。患者さんは「弱い立場で」「心細くて、つらくて」、それ以上に「悔しくて」、「自分にとってMVPである自分がいとおしくて」、だからこそ医療者の「上から目線」「上から言葉」に傷つきます。病いの不安の中で「この病院で本当に良いのかな」「この医者で本当に大丈夫かな」と思い続けています。そう思って目を凝らし耳を澄ませて患者さんのそばに居続けなければコミュニケーションは生まれないということは、医療の場に特別なことかもしれません。
   医療の場のコミュニケーションは、まず私たちが先にプレゼントすることから始まるものだと思います。プレゼントするのは、「時間」「言葉」「温かい雰囲気」の3つです。話を聴くことは「時間」のプレゼントです。相手の人の心にストンと落ちる「言葉」をプレゼントしなければ、「納得」は生まれません。一緒に話し合い、悩み、解決に向かって進んでいくことは、「温かい雰囲気」の中でしかできません。 話し合いは、言葉というプレゼントを患者さんに贈ることから始まります。どんなプレゼントが良いかは、相手の人の話を聴かないとわかりません。相手の人が受け止め切れないものはプレゼントにはなりません。相手がもらって良かったと思えるものしかプレゼントにはなりません。そのためにこそ、相手の人より自分の身を低くすること(understand)が、欠かせないのだと思います。(「惚れた弱み」があるからこそ、恋人の喜ぶプレゼントを見つけられるのでしょう。)
このプレゼントにはお返しがきます。患者さんからの信頼、患者さんとのすてきな出会い、そして私たちの生きがい。


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