東京SP研究会
コラム:日下隼人

日下隼人プロフィール

No.35

医療政策が医療の根腐れを進めるのでは

日下隼人    病院は否応なくその時の医療政策に振り回されます。医療政策に対応する(乗る)ことができなければ、経営が立ち行かなくなるので仕方ないのですが。
   最近の急性期病院では患者さんの入院期間をなるべく短くするように政策誘導されていますので、長めの入院が必要な人にはできるだけ早く「後方病院」に移ってもらうように苦労します。退院後の通院治療も地域の医療機関で受けるよう政策誘導されています。
   そうすると、病院では「早く患者を退院させて、転院させて」と、診療部長が管理部門から促されます。それを受けて、部長は医師に「早く患者を退院させて、転院させて」と促します。「患者にかかりつけ医を持たせて」とも言われます。こうなると、患者さんのことを「させる」と言わないでください、というような言葉はかき消されてしまいます。事実、患者さんに「させて」いるのですから。
   退院後は病院で引き続き診療しないで地域の医療機関に診療を依頼すると加算がつくことから、退院後の患者さんが私たちの視界から消えつつあります。そうすると、若い医師たちは、患者さんが家に帰ってからどのような経過をとったか、家に帰って家庭や地域社会の中でどのような問題に出会ったかといったことを学べなくなってしまいます。その結果、暮らしや地域への配慮ができないままの医療を続けていくしかなくなります。自分たちのしている医療の内容を、退院後の患者さんの生活を見ることで振り返り、軌道修正することができなくなります。こうして、ますます患者さんとは遠ざかる医療を行うことになります。
   暮らしや地域のことが見えないのですから、地域医療のことに思いをいたすこともできませんし、地域医療への興味も湧かなくなるでしょう。
   いま病院管理に関わっている私たちの世代は、患者さんの治療終了までフォローして患者さんの姿がある程度は見えていますので、こうした危険性に気づきにくいようなのです。こうして、医療政策が医師の「教育」が医療を空洞化させ、「根腐れ」を進めていきかねないと思います。
   「教育」の問題は、教師や教育施設から起きるのではなく、社会のありようから起きるのだと思います。このことは初等・中等教育でも同じでしょう。だから教育改革という言葉はいつも空回りするのです。医学教育改革という言葉も空回りしています。


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