東京SP研究会
コラム:日下隼人

日下隼人プロフィール

No.36

落ちのない問診のための呪文

日下隼人    研修医たちは、良い「問診」のためにLQQCSAAのような呪文を覚えるのが好きです(そのように教育する指導医も少なくありません)。痛みを訴える患者さんには、
Location,Quality,Quantity,Chronology,Setting,Aggravating-alleviating Factors,Association, Manifestations,と聞いていくと
「落ちのない」問診がスムースにできると教育されます。
  でも、本当は違いますね。このような呪文にとらわれると、研修医はclosed question(閉じられた質問)を機関銃のように打ち続けてしまうようになりますから、もうopen-ended question(患者が自由に話せるような開かれた質問)はできなくなります。患者さんは、聞かれたことしか話さなくなります。
  「落ちのない」問診ができるのではなく、この問いに引っかからない言葉はノイズとしか聞こえなくなり、引っかかった言葉以外はすべて落としてしまうインタビューしかできなくなるのです。スムースに事を進めようとしている相手に、人は自分の心の奥を話すことはありません。スムースにと考えていると、ノイズのように聞こえる言葉から広がる世界への扉を開けることはできなくなります(そこからしか広がらないと言っても、言い過ぎではないと思います)。ここには、ケアとは無縁の医者が出来上がる落とし穴が開いているのです。「呪文」を教えるようなことも必要だとは思うのですが、同時に、落とし穴をきちんと伝えること必要なのです。
   これまで私は医療面接演習などで研修医に、「患者さんの生きている姿に関心を持って、患者さんがどのような時間的経過の中で、どんなふうに困り、どんな暮らしをしているのか、そんな生き生きとした人間として見えてくるように話を聴く」ことを勧めてきました。そうすることで呪文の項目は自然にすべて満たされますし、それ以外のもっとだいじなことが見えますし、そこから患者さんとふれあう第一歩が始まります。でも急性期病院で急患ばかり診ていると、そんな「悠長な」こと(本当は近道なのですが)はしていられないと思うようになることも仕方ないのかも知れません。「早く情報を集めて、早く正しい診断にたどりつくこと」(診断あて早押しクイズです)にばかり研修医の目が向いてしまわないようにアドバイスすることが私の課題だと、あらためて考えています。


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