東京SP研究会
コラム:日下隼人

日下隼人プロフィール

No.41

「回数の問題??」

日下隼人    「あの患者さんは、理解力に問題があるんですよ。何度説明しても同じ質問をしてくるんだよ。毎回、丁寧に話すのに、また次に同じことを聞いてくる。あれだけ説明しているのに」という医師がいました。「それは違うでしょう」と、メディエーターと私は同時に口を開きました。ここでも、医師には量の問題として受け止められてしまっています。
患者さんが何度も同じ質問をしてくるとき、医師の説明が理解不能なものであったのかもしれませんし、質問を繰り返すことでもっと別の言葉を待っていたのかもしれません。医師の説明が理解できないのも、言葉が難しすぎたのかもしれませんし、患者さんの心が揺れ動いているためかもしれません。「通じないのか、じゃあもう一回同じ話を」というのは医師が陥りがちな隘路です。どこに問題があるのかを考えて、「路線変更」というくらいの対応能力を持っていることへの期待が医師免許証には込められているはずなのですが。
「患者さんは、先生が『理解力の低い患者だ』と思っていることをちゃんと感じていましたよ」とメディエーター。こうして、患者さんは傷つき、その小さなひびが早晩大きな亀裂になってしまいます。「医療の場は、感覚の研ぎ澄まされた患者と感覚の鈍磨した医療者とが対峙するところだ」と研修医採用試験受験の履歴書に書いた学生がいました。だからこそ、シロウトからみればあたりまえの患者さんの「不満」が、医療者には全く見えないのです。そして、このように書いた学生も、研修が進むにつれ「感覚が鈍磨」してしまわさざるを得ないのが医療の場の怖さです。


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