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No.49
自らが作り上げた虚像を攻撃していないか
暴言や暴行を働く患者はいます。異常なクレーマーも確かにいます。でも、そのことをネタに、医療者が過度に大きな「悪い患者」像を作り上げていないでしょうか。だから、不安から少しきつい言葉を患者さんが発すると、それだけでクレーマーとして排除しようとしてしまいがちです。「喪のプロセス」としての病院への訴えが、不当なクレームと捉えられてしまいます。「医療は無謬であると思い込み、完治以外はありえない(治らなければ医者のミス)と思う患者」が実在するとは思いますが、患者の誰もがそんなふうに思っているでしょうか。
患者はみんなそういうふうに考えており、それが医療崩壊を促すというような意見をしばしば目にします。「患者はみんなこんなふうに僕たちを責めるもの、その攻撃で疲弊するかわいそうな僕たち」という雰囲気が医療界に漂っています。そのような患者ばかりだと思ってしまうと、そこからは防衛的なインフォームド・コンセントしか生まれません。小さな出来事を針小棒大に取り上げ=「敵」の虚像を作り上げ、その虚像と戦わなければ私たちは生きられないというような論法は政治的なものであり、実は目新しいものではありません(むしろ陳腐)。ドンキホーテもそんなことをしていましたし、冷戦時代も、そして今も・・・。虚像の敵と戦うために刀を振り回すとき、返す刀で実在する患者さんが傷つけられてしまいます。虚像の敵と戦うことが、都合よく自らの加害性を見えなくしてしまいます。というより、見たくないから敵を作り出すのでしょう。人間は、あまり歴史から学ばないようです。