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No.51
ポライトネス
私たちはいつまでたっても横文字の言葉に弱いようです。ポライトネス理論というと難しそうですが、日本では敬語や敬意の表現について長い歴史があり、私はこの言葉を聞いても「いまさら」という気がしました。それだけならよいのですが、ポジティブ・ポライトネス、ネガティブ・ポライトネスという表現が出てきて、私は戸惑いました。説明を読んでみると、日本で高く評価される礼儀正しい態度が(相手との間に一定の距離をおくことから)ネガティブ・ポライトネスとされ、「礼節を弁えない」「なれなれしい」と批判されるような態度が(親しく接するという意味で)ポジティブ・ポライトネスとされているらしいのです。医学教育でもこの言葉を用いる人がいるのですが、これでは「なれなれしい」「ため口」のほうが良いのだと勘違いしてしまう学生が出てくると思います。「ポジティブ」「ネガティブ」という言葉から、そのような価値判断を消去することは不可能です。現場では、なれなれしい・上から目線の言葉や態度の医師に日々悩まされているのが実情なのに、と思いました。このような概念を取り入れるときに、もう少し慎重に考えられないものでしょうか。横文字の概念を学ぶより、日本語と日本の歴史を学ぶことのほうが大切だという気がします。
スーパーレジデントでもそうなのですが、ポジティブな言葉や人の優越感をくすぐる言葉は要注意だと思います。気をつけないと、ポジティブな言葉の反対側にいる人を負け組・劣位者としてしか見られなくなってしまいますし、ポジティブもその対の「ネガティブ」の側から見ればネガティブだということに気付けないでしょう。