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No.6
模擬患者と身体診察A
佐伯さんは「SPが弱い」と言っているのではありません。こんなことを言っていると医学教育はSPに見限られてしまうよ、と言っているのではないでしょうか。「所詮医者は医者」、「結局、お医者様は偉い立場を手放すことなんか無いのだ」「私たちを道具としてしか見ていないのだ」「こんな奴らに期待してみたけど、無駄だった」と一般市民から呆れられるのですよと言っているだけなのだと思います。 SP参加型教育の利点として「市民の視点」ということがあげられていますが、それとても医療者が「ちょっと別の視点もあったほうが、カッコいいな」という程度のものなのかもしれません。だって「市民の視点」を取り入れるということは、私たち医療者にとって決して好都合なものではなく、存在基盤を脅かされるもののはずです。自らの存在基盤を危うくしないような営為は、事態を根本的に変えてはいかないでしょう。そのような緊張感が「身体診察のSPを早く作ろう」というような言葉には感じられません。 人間としての共感を根底においた私たちのおつきあいがなければ、コミュニケーション教育で「共感的な関係」を語ることなどそらぞらしくなってしまうでしょう。目先のちょっとした「進化」を求めることは、実は「角を矯めて牛を殺す」ことになると私は思っています。