医を育てる医師教育と臨床研修(5)医療面接教育(ドキュメント挑戦) |
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病気と闘うパートナーに 「○○さんは熱が高いという設定の患者役をやってください。××さんは頭痛がする患者を……」。佐伯晴子(50)のよく通る声が響く。ひと月に二回開かれる東京SP研究会の例会の風景だ。 SPはSimulated Patient(模擬患者)の略である。一般市民がさまざまな病気や症状、あるいは生活をもった患者になって医学生の実習に参加し、医療面接教育の役に立とうというのだ。 日本では1990年代に川崎医科大学で取り入れられたのが最初で、その後全国に広がった。 佐伯が代表をしている東京 SP研究会は95年に発足、現在三十人ほどの会員(SP)がいる。大半が六十歳代で、会社を退職した男性や、子供が独立した女性が多い。中には実際にカウンセラーとして活躍中の人もいる。 面接教育はあらかじめシナリオ(場面)を設定しておき、SPがシナリオに従って患者の役割を果たす。「会話を通して患者の痛みや苦しさ、不安、疑問などをくみ取れる医師になってほしい」と佐伯は言う。「きちんとコミュニケーションがとれる能力を育てるのがねらい」(佐伯)だ。 佐伯自身、大阪外語大学を終えて通訳派遣・国際会議を運営する会社に勤めた際、文化の異なる海外の人たちとコミュニケーションをとることの大切さと難しさを痛切に感じた。 その後イタリアで暮らしたとき、がんの緩和ケアを進めるボランティアチームにかかわった。ここで、医療にとって人の役割がいかに重要かということを知った。帰国後、すでにSP活動をしていた大阪の「ささえあい医療人権センターCOML」に啓発され、現在の研究会を立ち上げたのである。 これまでの「問診」では、医師が一方的に症状を聞くという色彩が強かった。主導権は医師にあり、「情報源」にすぎない患者が口を挟む余地は少なかったのである。 そうではなく、患者の話すことをじっくり聞き、あるいは患者が話したいことを上手に聞き出せれば事情が違ってくる。医師と患者の間で会話が生まれてくる。医師、患者のいずれが主導権をとるというのではなく、お互いが病気と闘うパートナーとなる――。こんな関係を築きたいと思っている。 患者が理解できない専門用語を、医師は使うべきではないと口を酸っぱくして言う。また、身だしなみをきちんとすることや、患者と目を合わせること、時計をちらちらと見て時間がないというようなそぶりを見せないこと、などを注意する。何気ない医師の態度も患者の信頼を大きく損なうことになるからだ。 医師や薬剤師、看護師のほか、病院の職員の研修など活動の幅も広くなっている。こうした多くの医療者の目の高さが患者と同じになったとき、日本の医療も変わる―と佐伯は思う。 (編集委員 中村雅美)
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2005/09/20, 日本経済新聞 夕刊, 5頁, 1,159文字 |
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