東京SP研究会

 

2002年  医学教育学会誌 投稿原稿

医療面接実習の効果はOSCEに反映されているか
医療面接実習とOSCEのあり方の検討



医療面接実習の効果はOSCEに反映されているか
医療面接実習とOSCEのあり方の検討

佐伯晴子
東京SP研究会

   抄録:OSCEは教育成果を問う評価の一方法であって,実習や具体的な訓練を実施した後にOSCEで評価するのが本来の順序である.しかし現実に医療面接で模擬患者として私どもが参加するOSCEには事前教育が省略されている場合が多い.また医療面接実習が実施されていても実習時に学んだことがOSCEで必ずしも評価されないこともある.ただ,未整備な状況にもかかわらず学生は医療面接実習でSPからフィードバックされた点の改善に努めようとしている.学生の面接能力がより一層向上するためには,医療面接実習と評価としてのOSCEの連携がなされるのが望ましい.

キーワーズ:OSCE,医療面接実習,模擬患者(Simulated Patient SP),
評価

Is the Medical Interview practice effective in getting a good score at OSCE ?

OSCE is one of the evaluating ways about how a student learned and gained some specific skills through the process of preparing practice courses. However, students are seemed to be evaluated in many OSCEs without enough preparations. Even when enough practices are proceeded, students can be measured at OSCEs by criteria totally different from that was taught in the practice courses. Despite these situations, students make efforts to improve themselves on tasks pointed out by SPs at the practice.   To encourage students to gain interview skills, practice courses and OSCE should be coordinated .

Key words: OSCE, Medical Interview practice, Simulated Patient, evaluation


はじめに

 東京SP研究会は年間20校以上の医学部OSCEの医療面接部門に模擬患者を派遣している.また医療面接の課題シナリオの作成を担当し評価者トレーニングやワークショップで過去のOSCEの経験にもとづく実施上の提案を行っている.ただ,急速に普及したOSCEであるが,本来は教育に対する評価法であるはずのものが,前提となる教育が行われていないのではないかと感じることがある.「評価」というより「試験」と考えている大学もあると言ってもよいだろう.「評価」は教育の成果を問い,学生の受け入れ状態を調べ適切な指導につなげるだけでなく,教育方法の見直しを図り教える側の改善にもつなげるので,評価の前提の教育と評価後の指導というプロセスの一環として「評価」がある.一方「試験」は入学試験を例にとると,試験実施機関による受験者への教育がなく実施後の指導(不合格者に対して)もない.もっともOSCEの日本語訳が「客観的臨床能力試験」であるから「試験」の感覚になるのも致し方ない面もある.少なくとも当会が協力しているOSCEの多くには,OSCEが評価の一方法であるという認識がすくない現状である.
 さて,OSCEの前提となる実習,とりわけ医療面接実習の実態はどうであろうか. 各大学の医療面接教育の具体的なカリキュラムやシラバスはどのようなものか,実情はあまり報告されていない.したがって当会が参加した20校のOSCEとその準備教育について報告することは,全国の医科大学での現状を把握する上で参考になると思われる.当会の活動で知り得たことであるが,プライバシーに配慮した上で一部を報告し,検討してよいであろうと筆者は判断した.本稿では,医療面接実習とその評価法であるOSCEの実態を報告し今後のカリキュラム改善への提案をおこなう.


当会が参加協力しているOSCEの実情

 当会がSP派遣などで協力したOSCEは平成13年度で医科大学20大学で,のべ27回であった(2学年で実施する場合を含む回数).そのうちSPとの医療面接実習などをOSCE前に行っているのは8大学で,12大学はいかなる形でもOSCE以前に学生とSPとの接点はなかった.先にあげた8大学のうち,学生全員がSPとの医療面接実習を体験できるのが1大学,10名程度の学生が体験できるのが5大学,1〜2名の学生がSPと面接するデモンストレーションが2大学であった.つまりこれは半数以上のOSCEで学生は初めてSPとの医療面接を体験し,教員は初めてSPの演技や評価方法にふれ,SPはその大学の教員と学生に初めて出会い,評価していることを意味する.では,SPがその大学や学生と初めて接点をもつのがOSCEである場合,どのような問題が生じるのだろうか? SP側にとっての問題として大きく次の3点が挙げられる.
  @ SPの扱われ方が定まっていない SPが医療の受け手の感覚を伝えることによって医療者や学生の面接能力をより具体的に改善する教育資源として有効であることは広く認識されている.ところが大学側からSPは何者か?という奇異の目で見られたり下請け工事業者として契約を求められたり,SPの任務とは無関係な学歴や職歴を提出させられることがある.制度上必要なこともあろうが,医療面接教育での協力者としてSPが迎えられていないと感じることがある. そのようなOSCEでは学生のSPに対する態度が冷ややかに見え,対話の姿勢も少ない.
  A 医療面接における価値観がSPと評価者とで乖離している 医療面接の目的は信頼関係構築,情報収集,治療(教育)と3つが順におかれるが,OSCEの評価者によっては第一の目的が「信頼関係構築」ではなく「鑑別診断」の場合がある.学内ワークショップなどで「医療面接」の理念が伝えられた大学ではこのようなことは少ないと期待されるが,一部の評価者は従来の「鑑別診断」でOSCE医療面接を評価することが多く,SPとして戸惑うことがある.課題の表記は「医療面接」でも評価者から求められるものが「予診」や「問診」であると,価値観が大学評価者とSPとで乖離する.一般に大学評価者とSPは異なる視点で面接を評価するが「医療面接」の3つの目的は共有された上での違いである.しかし医療面接の理念が通じていないOSCEでは価値観の乖離は視点の違いに留まらないため,大学評価者とSPとが協調できないことが起こる.また,学生は「鑑別診断」で評価されるため,SPからの評価の位置づけに戸惑いを覚え,質問に効率的に答えないSPに反感をもつことさえある.
  B OSCEの手順で合意がない(開始終了の合図,メモの扱い,SPフィードバック) OSCE実施までに対面での打ち合わせや連絡などの接触が少ない場合はOSCE当日 開始後に問題が見つかることがある.時間計測と合図についてタイムキーパーと評価者, あるいは学生やSPに了解が得られておらず,開始と終了の判断が部屋ごとに異なる場 合がある.学生の入室と課題を読み準備する時間を「移動」に含むか,開始の合図があった後に学生が入室し課題を読むかで1分間は違う.課題が5分であれば1分のロスは大きい.また終了の合図後も面接を続ける学生に指示を与えないこともあり,持ち時間 の不公平が生じるのでSPが判断して合図後は打ち切ることもある.学生が面接時にメモをとるが,次のステーションでカルテ記載がある場合は別として,面接終了後は必ず回収して情報が外に漏れないように努めるべきと思うが,その対策が講じられていない. フィードバックを評価者の教員とSPが担当するとき,評価者が自分のフィードバックが済んだ時点そのまま評価表に眼を落としSPのフィードバックに関心を払わないことがある.すると学生はSPのフィードバックに関心をもたないことが多い.
   以上,もしOSCE以前に実習などで大学評価者とSPそして学生の接触があれば, 未然に防げ改善される問題点を取り上げた.カリキュラム改革をする上で困難がある だろうが,学生がSPと面接する機会がOSCE以前にできるだけ得られるように望む.


SPとの医療面接を全員の学生が体験した大学におけるOSCEについて

 医療面接の講義,学生どうしのロールプレイ,SPとの実習という手順で医療面接 の教育がなされている大学は現状ではひじょうに数少ないことを述べたが,その中で,全員が4年生後期にグループで医療面接の実習をロールプレイ,SPとの面接と行い,その上でOSCEを実施する1校をとりあげる.当会ではSPからの評価表を実習時にSPが口頭でフィードバックするときにも記載しており,記載の基準はSP間で標準化するよう心がけている.多少のぶれはあっても許容できる程度に留まっていることをメンバー間で確認している.したがって,同じ学生に異なるSPが対応しても評価にはそれほどの差はない.実習とOSCEでは異なったSPが担当したが評価の基準はおおむね同じと考え,SPからの評価表を実習時とOSCE時で比較してみる.
 SPからの評価表(平成13年度時使用の形式)は当会が作成したもので評価項目は,
1.服装,マナー,態度は適切であったか(気になる動作はなかったか)
2.話をよく聴いてもらったと思うか(主な症状や受診の動機について自由に話せたか)
3.正確に理解してもらったと思うか(誤解がなく,具体的に把握されたか)
4.わかりやすい言葉だったか(専門用語,即座に通じにくい言葉を避けていたか,質問の意図が明確であったか,聞き取りやすい声と口調だったか)
の4項目と,全体を通しての概略評価である.
   実習は一回3時間20名を5名ずつの4グループに分け,4名のSPが各グループを巡回した.最後のグループでは同じSPを相手に2名の学生が続けて対応することにした.その場合2人目の学生は1人目の面接時には別グループを見学し,先入観なく面接を最初からできるよう配慮した.各グループには教官がファシリテータとして加わり,学生のディスカッション時に適宜助言した.ファシリテータの指導がグループに固定し偏ることを避けるため,教官もSP同様にグループを巡回し,学生は多角的な視点で面接を評価された.これに先立つ教育として,医療面接の概説講義(全員一同)と,グループ別でのロールプレイ実習が行われている.とくに学生どうしのロールプレイではVTR収録再生を行い,非言語的コミュニケーションの相互学習も行われたようである.SPとの実習はロールプレイ実習の数日後に設定され,医療面接の役割やおさえておくべき医学的項目などはだいたい了解されている.
   SPとの実習では,目的は,「あくまで次回も来院してもらえるように,話が続けられること,関係が作れること」と強調され,医学の学習途上であっても知識不足で行き詰まるのではなく,面接技法を習得するよう指導があった.ここでの面接設定時間は,全体から割り出した7分間であった.時間の制限については「すべてを聞き出す必要はない,途中で終わっても構わない」と指示があったが,不自然ではない終わり方が許されていた.1回ごとの面接後は学生とSPが感想をのべ,シナリオを開示し,ディスカッションを行い,実習の最後にグループ別に「医療面接で留意すべきことは何か」「本日の実習で得られたこと」などのテーマで発表があった.この時点で学生は各自の面接の個性や傾向に気づき,具体的な改善点もある程度見出している.すぐに変えることのできる服装や短期間でも習得できる具体的な行動に対しては,前向きに取り組みたいという姿勢が発表内容からもうかがえた.
   さて,この実習後に設定されたOSCEで学生はどのような面接をしていただろうか.実施されたOSCEは,全国医科大学の現行OSCEで典型的と思われる5分の時間設定であった.評価者は実習時にファシリテータを担当した教官が行うことが多かった.
    OSCEの評価表(教官)は1.面接の導入 2.面接技法 3.態度 の構成で,
1.あいさつ,自己紹介をする,患者の確認をする,面接に適切な環境整備をする
2.最初に患者が自由に話が出来るように配慮する,患者が話しやすいように促進する,患者に共感的態度で接する,要約を述べる,解釈モデル・受療行動を把握する
3.視線を合わせる,適切な言葉遣い・態度で接する
という項目が3段階で設定されていた.SPからの評価表は実習時と同じである.


学生はOSCEでどのように変化していたか

 SPの評価表で比較してみると,服装,髪型などの項目だけでなく,しぐさや言葉遣いについても改善の努力が感じられる.しかし5分の時間制限と試験を意識した心理的なプレッシャーから,あたたかい感じで接する余裕が生まれにくく,マナーや態度が実習時より下がった例も見られる.また,本来は積極的に傾聴しようとする姿勢があっても制限時間のために,今一歩踏み込めずに,他の情報収集に移る場合が多くみられた.原因は前年までの教官の評価表には情報項目が多くあったためではないかと思われる.したがって,聴くという点ではOSCEでは実習より他の項目に比べて低下が多く見られた.また共通理解を深めるというより「まとめ」という形式をすることに関心が向いているように感じられ,SPにとっては逆効果に終わった場合も見られる.ただ最後の 話し方については,専門用語は使わず,質問の意図をわかりやすく伝える配慮ができ, 全体的に点が上がっていた.これらのことから,実習で学んだことがすべてOSCEで 反映されていたとは言えない.これはOSCEの時間設定が問題なのか,他の手技試験もあって面接に集中できないせいなのか,その他の複合的な要因によるものと思われる.


SPとの医療面接実習とOSCEの連携に望むこと

 学生の意識を知るために個別に有志学生に自由記載のアンケートを依頼した.SPとの医療面接実習については,患者さんとのコミュニケーションの難しさを実感した,情報を引き出せればいいと思っていたがそうではないとわかった,患者さんが考えていることを想像するきっかけになった,などが挙げられた.OSCEでの医療面接の感想は,時間が短い,評価されると意識すると緊張するなどのほかに,「どのくらいの情報を求められているのか分からず丁寧にゆっくり面接したら既往歴などもっと聞くようにと言われた.テストとなると,どの辺に重点をおいてよいのか難しい」との声があった.医療面接実習で学んだ「患者さんが話しやすい雰囲気をつくるための具体的な配慮」がOSCEで活かせたという声が多くあったが,やはりOSCEの時間が短い,最低7〜8分あるいは面接者が終わりとするところまでやりたい,という声が多かった.医療面接実習をもっと多くやりたい,教官が医療面接のテキストと全く違うフィードバックをして困った,OSCEの結果が戻ってこないなど教育内容の改善を希望する声もあり,学生が「医療面接」の目的をじゅうぶん理解した結果ゆえに厳しい意見も出たと思われる.
   このように最も実習を手厚く行っている大学でも学生にとっては学習の成果を完全には反映できないOSCEが実施されていることがわかった.評価方法として適切なOSCEの実現が望まれていると言えよう.学生,SPとも連携を図った改善が待たれる.




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